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東京地方裁判所 昭和28年(ワ)9039号 判決

原告 高津産業株式会社

被告 株式会社鈴木洋裁所

主文

1  被告は、原告に対し

東京都品川区小山台二丁目一四七番地ノ一

家屋番号同町一四七番の二一

一木造瓦葺二階家研究室 一棟

建坪  二四坪

外二階 二四坪

のうち別紙図面〈省略〉斜線で表示した部分を明け渡し、かつ昭和二七年一〇月二日以降右明渡ずみにいたるまで月二、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は、原告において被告に対し三万円の担保を供するときは、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告代理人は、主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め請求原因として、次のとおり陳べた。

一  原告は、訴外鈴木よね及び同鈴木千代に対する元本一八〇、〇〇〇円の貸金の担保として、所有者である訴外鈴木よねが原告に対し設定した抵当権の実行として、主文第一項記載の建物につき当庁昭和二六年(ケ)第五三六号事件を以て競売の申立をなし、昭和二七年一月二九日自ら競落したところ、同年三月一九日競落許可決定があつたので同年一〇月二日所有権取得の登記をした。

二  被告は、前項原告の所有権取得登記前から原告に対抗することができる権限なく前項建物のうち別紙図面表示の部分を占有して原告の所有権の行使を妨げ、少くとも毎月相当賃料たる月二、〇〇〇円の割合による損害を原告に加えている。

三  よつて、原告は、所有権にもとずき被告に対し前項占有部分の明渡及び昭和二七年一〇月二日以降明渡ずみに至るまで相当賃料たる月二、〇〇〇円の割合による損害金の支払を求める。

四  被告の抗弁事実は否認する。仮りに被告主張の事実があつたとしても、被告が訴外鈴木喜久造から前項占有部分につき賃借権の譲渡をうけ、訴外鈴木よねがこれを承諾したのは、昭和二六年一一月一六日第一項の競売事件につきなされた競売開始決定登記の後であるから、差押の効力として、訴外鈴木よねの承諾は、原告に対抗することができないのみならず、鈴木よねは、当時競落により所有権を喪つていたから承諾の権限がなかつたものである。したがつて、被告の抗弁は理由がない。

被告代理人は、原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、次のとおり陳べた。

一  原告の請求原因中第一項の事実並びに第二項中被告が原告主張のとおり主文第一項の建物部分を占有すること及び右部分相当賃料が原告の主張するとおりであることは認める。

二  訴外鈴木よねは、昭和二五年三月一日訴外鈴木喜久造に対し前項建物部分を賃貸し、賃料月二、〇〇〇円と約定したが、訴外鈴木喜久造は、昭和二七年六月一日訴外鈴木よねの承諾をえて右賃借権を原告に譲渡した。被告が取得した賃借権は、所有者鈴木よねに対抗することができるものであるから、被告の右建物部分の占有は、原告に対し無権原とはいえない。原告の請求は理由がない。

三  原告主張の競売開始決定の登記が原告主張の日時になされたことは、認めるけれども、被告の賃借権取得は、原告の競落による所有権取得の登記前になされたものであるから、これを原告に対抗することができるのである。

立証方法及び認否

〈省略〉

理由

請求原因中第一項の事実並びに第二項中被告が原告主張のとおり主文第一項の建物部分を占有すること及び右占有部分の相当賃料が原告主張のとおりであることは当事者間に争がない。

被告の抗弁について判断するに、たとえ被告の占有が被告主張の事由に基くとするも、本件建物につき原告主張の競売開始決定の登記がなされた日時が昭和二六年一一月一六日であることについて当事者間に争がないから、被告が賃借権を譲りうけ、これにつき所有者である鈴木よねの承諾をえたのは、競売開始決定の登記の後であることになる。競売開始決定の後に競売の目的である建物の所有者がした賃借権の譲渡の承諾は、競売開始による差押の効力により、その競売における競落人のためにされた所有権取得登記の日時の如何にかかわらず、競落人に対抗することができないと解するのが相当であるから、被告の主張は、事実の確定をまつまでもなく、主張自体理由がないという外はない。

そうであつてみれば、他に格別の主張立証がない限り、被告の占有は、競落により所有権を取得した原告に対抗する事由があるといえないから、原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民訴八九条の規定を、仮執行の宣言につき、同一九六条一項の規定を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川善吉)

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